◆9月16日 17時のエピソード/Aルート――――

(あの6人を殺した犯人が、
  動き出したってのか!?
  ちくしょう! オレたちを皆殺しに
  するつもりなのか!?)

渡瀬はそこではっと気づく。
「――だとしたら、橘も危ない!」
渡瀬は亡骸をその場に残し、
連絡通路を駆け抜けた。
だが、そこで渡瀬を待ちうけていたのは――
「な……っ!」
内周棟に足を踏み入れた瞬間、
渡瀬は言葉を失った。
床一面に広がる血――。
その中に風見が仰向けに倒れている。

「――橘っ!?」
駆け寄り、風見を抱き起こす。
風見は胸を、縦に大きく切り裂かれていた。
そこから溢れ出す血が、まだ温かい。
「ぅ……わ、ワタせ……?」
風見は、まだかすかに息があった。

「橘っ! 待ってろ、今すぐ治療して
  やるからな!」
だが声が届いていないのか、
うわ言のように風見が言う。
「たいちょう、おしえてください……。
  わたしたちは……いったい、
  何にまきこまれたというのですか……?」
「わからないんだよ橘、
  オレにもそんな事は――」
口を動かすほどに、風見から生気が
抜けて行くのがわかる。

「橘、もういい! もういいから、
  それ以上しゃべるんじゃねえ!」
「あぁ……見えない……。
  ねぇ……どこに、いるの……?
  い、いや……私もう……
  1人になんか、なりたく、ない……」

風見は震える声でそう呟き、
――そっと眼を閉じた。
風見は渡瀬の腕の中で、
静かに息を引き取ったのだ。
暗闇に、静寂が訪れる。

「…………」
渡瀬は呆然と、風見の死に顔を見つめた。
やがてやり場のない怒りが、
腹の底から湧き上がる。

「……ぁ…あ……。
  ……ぅおおお……。
  ……おおおおおおっ!
  なんでだよ! なんでこんな事に!!
  教えてくれ、橘!」
だが風見が目覚めることはなく――
渡瀬の願いは暗闇の中に、儚く消えた。

……それから渡瀬はふらふらと、ラボ内を徘徊した。
まだ見つかっていない最後の要救助者を探し求めて。

その最中、ふと疑問に思う事があった。

時間的にはラボ全域が汚染区域に
なっているはずなのに――

――自分はなぜ何の苦痛も感じて
いないのだろうか、と。

だが、すぐにそんな疑問はどうでもよくなった。

そして、ラボ内をどんなに探しても――

渡瀬は最後まで、『9人目の要救助者』を
見つける事ができなかった。


※画像およびテキストは開発中のものです。